電音の工場ブログ

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2013-06-10

『作れ! 音デバイス』

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この本を買いました。

twitterで著者らの熱いコメントを見ながら楽しみにしていたが、出てきてみると読者的にはまったく満足できない内容のものでした。

作れ! 音デバイス

作れ! 音デバイス


本書をカテゴライズすると、著者らが製作や電子工作の習熟を通じて得たもの、腑に落ちたものを本を通じて読者とシェアしよう、読者に分け与えようとする類の本だと言える。「腑分け本」である。

分け与えられたポイントをその位相と強度においてシェアできる読者であればこの本は有用である、かもしれない。


準備編、サウンド編、コントローラー編の3編からなる構成となっていて、著者2名の執筆分担がなされている。


準備編

準備編として1章あり、能書き2節ののちに「電子回路の基礎知識」  回路図部品の説明があるが、後半の実回路では出てくるオペアンプの解説がここにはなく、かといって後半で解説されるわけでもない。第2章にオペアンプ差し替えを勧めるコラムがあるだけなので非常に困ってしまった。説明があったりなかったりというのはバランスが悪い。編集は仕事をしているのか? 「わかる人が読むからいいんだよ」ということであるならは準備編で抵抗器やLEDの説明など不要だ。ちなみにサウンド編とコントローラー編でLEDの表記が違うことをエクスキューズしてあって、著者間のバラ付きの統一を放棄している。

次にPICのニーモニックの一部を表にして紹介、Cプログラムの型事例紹介(誤記有り)で1節。後半への予備知識になっているとはいえず、参照もされていないので浮いた1節になっている。


サウンド編

サウンド編では「オシレーター」の解説から始まる。オシレーターといいつつ、テーブルルックアップしてR-2R DACというもののみ。DDSといいつつ位相アキュームレータ更新の解説はない。対してR-2Rは3bit R-2R DACを3ページかけて説明している。途中に抵抗器の直列と並列の合成抵抗の公式が出てくるが脈絡がない。

そしてPICに実装した記事に至る。本書が示すURLにプロジェクト一式が置いてある。正確に言うとプロジェクト一式を同梱したアーカイブが置いてある。フォルダ名が字化けして読めないけど諦めずにサブフォルダを見るとプロジェクトフォルダが有った。*.o とか *.o.d まで置かなくていいのに…

ところで、というか、実は、というか、プロジェクトのソースコードが置いてあるのはこれだけ。あとはキットに誘導されて回路図はあるけどもマイコンのビルドはできない、オープンスケマ、クローズドソースとなっている。記事中に出てくるオシレータキットは、ブレッドボードに繋いで電圧制御で動かしている様の写真と波形が載っているだけとなっている。電圧制御の他にMIDI制御の形跡もあってワクワクしたが、中身の解説はおろか動作実例の紹介もなくてがっかりした。


オシレータに続くVCAVCFはキットの方もマイコンレスなので回路図の通り組めば動かせられるはずである。なおVCFは Steiner-Parker Synth の回路になっている。

アナログ回路は±12Vを供給する想定なので電源回路の解説もある。9Vの電池から7805でのデジタル+5V系と絶縁式DC-DCで±12Vアナログ系を作っている。

  • 保護用のポリヒューズが共用になっている
  • 電流に関する記載が全くない
  • この構成のGNDに対する記載がない

といったところが気になる。


サウンド編の終わりに腑分けポイントをコラムに明記してあった。

ビルディングブロックを持ってきて接続する際に、気をつけないとボリュームのカーブやゲインが後段の入力インピーダンスで変化するので注意しましょうという話。

それからケースの加工図面の書き方の話が取り上げられていた。

ケースの話は、特にこのあとなにかケース加工を伴う製作記事があるわけでもなく、まさに著者が学んで役立ったものなので記載したのであろう。私には不要なコラムだった。だって中学校の技術家庭科で習っている内容だもの。


コントローラー編

コントローラー編は「パーツの特徴・選び方」といった節から始まる。

しかし特にこれといった選び方のしっかりとした解説があるわけではない。

基板に直接取り付けるのか、ジャンプワイヤー経由なのか、それによって選択するパーツが異なります。

そりゃまぁそうだなぁ。

部品点数が多い場合は基板にマウントの上で集合ケーブルで引き出したほうがひとつひとつ圧着CNつけるよりも楽、とか、そりゃそうだよなぁ。

とはいえ一度は やってみないと感覚的に掴めないのも仕方ないことかもしれない。

フェーダの固定ネジはナベだと引っかかるのでザグって皿にするか低頭ネジにしましょう的なこともあるけど、DJ的なオペレーションをするのならサブパネルにマウントしてトップサーフェスにはネジ頭を出さないほうが良い。アマチュアの工作であってもそれが普通だと思えるようになってほしい。

なお回路図、と称してスイッチや可変抵抗器/フェーダ、SoftPot/感圧/加速度/距離センサ を PICrouter という回路ブロックに接続した図面が出てくる。p.118初出で、解説(というかURI)が出てくるのが p.223 なので読者はすっかり置いてきぼりとなっている。いったい編集はどういった仕事をしたのであろうか。回路図のとおり接続したとしてもコードがないので何ができるというわけでもない。おまけにPICrouterなるものの回路図は本書並びに本書サポートのアーカイブにも記載がないので、さきのサウンド編のコラムにあった「気をつけないとボリュームのカーブやゲインが後段の入力インピーダンスで変化するので注意しましょうという話」を踏んでしまいそうでどうしたものやら、という思考に陥るわけである。


コントローラ編第2章では「パーツ制御のノウハウ」を説明している。著者は誤動作をなくしつつレイテンシーを抑えることに重きをおいているようだ。

チャタ取りの話とかシフトレジスタでキー数拡大、マトリクススキャン、ロータリエンコーダの使い方の話とか。アナログ的に対処する話は全くなくて、全部マイコンのコードで何とかしようというもの。これらは項目としてはあるのだけれど、掲載されているサンプルコードも解説用のコードであって、実験できるコードではない。せめてアルゴリズムが明確に書いてあれば助かるのだけど…

なお、サンプルコード中では「(スイッチなどの繋がった)ポートを読んで、1msec待って、もう一度読む」といった記述が多々あった。サンプルなのでこのような記述なのだと思われるが、ふつうマイコンを1msecもダダ待ちさせるのはやらない。とても勿体なくて出来ない。そのようなスイッチ処理がカスケードになれば処理が累積遅延するしね(本書中でも言及有り)。だから実用コード中ではスイッチ処理内で1msecも待つようなことはしないのだけど、そのあたりをシステム的見地から表したものが本書にはなかったことも残念だ。


まとめ

献本をいただいたわけでもないのにすごく篤く書評してしまった。

平たく言って、製作記事の形をかろうじてなしているのが1作、キットの回路図を示しているのが電源も入れて4作(そのうちの1作はマイコン使用でファームウェア開示なし)。あとはひたすら回路例、LTSpiceに突っ込んでみた回路図、接続例、ニーモニック抜粋、ヘッダの一部、サンプルコードと付随するテキスト。それらのアセンブルが本書である。

今時分、書籍の企画が通るということ自体のハードルが高くなっている中で、音の出るガジェットの電子工作をターゲットとした本書の刊行は大変に勇気づけられるものである。しかしだからこそ、後進のためにも一定のクオリティはクリアして欲しかったと思う。


著者らは実際に製作を行なっており製作物には定評があるようである。著者のおひとりがアナログシンセビルダーズサミットに出展されたとき、その楽器の完成度の高さには舌を巻いた。

しかし本書にはその実力や人となりが露ほどにも表れていないように思う。腑に落ちたところを抽出して表現するよりも、著者らの製作の全過程をまるまると、ありありと、それも1000書いたうちの100が活字になってでてくるというぐらいの集中と選択で、書籍に表したほうが良かったのではないかと考えるわけである。

トラックバック - http://emusic.g.hatena.ne.jp/Chuck/20130610